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コラム 記者の呟き

 市議会本会議を取材中、ある市議に小説「蟹工船」の話題を振ったところ、「若い頃に読んだことがある」との返事。「その『蟹工船』職場で働いたことがあるんですよ…」と言おうとして、言葉を飲み込んだ。これまで体験した、記憶の底に沈めたい忌まわしい記憶が蘇りそうになった▼そのうちの一つが、大卒直後に就職した東京の広告代理店でのエピソード。電話営業の営業マンとして勤務していた時「お前は営業トークが硬い」と上司に言われ、「業務命令」として日本酒を飲んでの電話営業を命じられた。悪酔いしそうなまずい日本酒を飲まされながら、夜の8時頃に電話営業をさせられ、周りの笑い物にされた▼幸か不幸か営業部門から事務部門に転属となったが、業務の一環として社長・会長の乗るベンツ掃除を命じられた時は、悔しさのあまりに涙が出たが、これらの精神的苦痛に耐えて約2年過ごしたが、同期入社の社員は精神的苦痛に耐えきれず全員退職した。(崎)

(2008年10月1日付常陽新聞社会面掲載。)


 報道部に配属されて3カ月。「追いつき追い越せ」と、今までの空白を埋めるべく努力し、気がついたらもうすぐ32歳になる▼私とほぼ同世代で「週刊東洋経済」の風間直樹記者は、非正規雇用問題の取材成果をまとめた書籍「雇用融解」を出版。またフリージャーナリストの志葉玲氏は、イラク戦争を取材して、書籍「たたかう!ジャーナリスト宣言 ボクの観た本当の戦争」を刊行している▼彼らの活躍を見るたびに気があせる一方、やっと同じ土俵に立てたので、後は努力次第で追いつくだけだが、それも「安定した職場」という能力を磨く場があっての話▼だが「能力を磨く場」さえ与えられず、日雇い派遣など「使い捨て労働」に従事させられる若者が多い。5日には東京都新宿区で非正規労働の若者たち約4600人が集会を開き「若者を使い捨てにするな」と訴え、本県からも多数の若者が参加した。彼らの声を伝える使命が「氷河期世代」の私には課せられている。(崎)

(2008年10月8日付常陽新聞社会面掲載。)


 「常陽新聞はいいねぇ、常陽新聞は。茨城県内のニュースだけでなく、『声なき声』も取り上げてくれる。茨城県が生み出した文化の極みだよ。そうは思わないか?(崎)くん」▼「ど、どうして私の名前を…」「君の署名入りコラムを知らない者はいないさ。県内の官公庁やメディア関係者はみんな読んでいる。君は格差社会問題などを積極的に書いているね。ブログなら『炎上』間違いなしのもあるけど、向こう傷を恐れないで書く勇気、好意に値するよ」▼「『炎上』体験は、以前書いていたインターネットニュースで慣れてますから…」「常陽新聞には、骨のあるベテラン記者がけっこういるね。今じゃ全国紙でもなかなか見られないよ。これからも先輩たちと頑張って」「あの…あなたは…」▼目が覚め、枕もとの朝刊を開くと、夢に出てきた「新世紀エヴァンゲリオン」の登場人物が描かれたパチンコ店の折り込みチラシがあり、朝刊には10月15日の「新聞週間」特集記事が載っていた。(崎)

(2008年10月15日付常陽新聞社会面掲載。)


 19日に東京で行われた「反貧困世直しイッキ!大集会」には本県はじめ全国から約2000人が集まり、改めて「貧困問題に県境は無い」という思いを強くした▼会場には全国紙や東京のテレビ局をはじめ、長野県や愛知県などの地方紙の記者の姿もあった。貧困問題は全国規模で起きており、本県でも例外ではない▼日雇い派遣労働者問題にしても、県内には多くの若者が日雇い派遣労働者として働いているにもかかわらず、「日雇い派遣問題は東京の話」と、あまり関心を払っていなかったように思える▼母子家庭の貧困問題や多重債務問題などについても、すぐ身近なところで起きているのに、県内には近くに相談先がない事例があり、常磐線・TX沿線の住民の中には、相談先のある東京までわざわざ出てくるケースもある▼本県にも「自立生活サポートセンター・もやい」の支部があれば、少しは県民も貧困問題について関心を持ち、県内の状況が改善するのかもしれない。(崎)

(2008年10月22日付常陽新聞社会面掲載。)


 先日「あしなが学生募金」の募金活動を取材したが、私はかつて日本育英会(現・日本学生支援機構)の奨学生で、他人事とは思えなかった▼14年前の大学1年生当時、所属していたゼミ生20人中、私も含め3人が日本育英会の奨学生、2人が「新聞奨学生」で、ゼミ生の4人に1人が奨学金で学生生活を送っていた▼学生支援機構の奨学金は事実上「公営学生ローン」で、ヨーロッパ諸国で主流の返済不要の「給付型奨学金」ではない。そのため、奨学生は大学卒業後に数百万円単位の「借金」を背負う▼順調に就職できて返済できればいいが、正社員として就職できず非正規労働者になると、不安定な収入のため返済に行き詰まる▼某コラムニストが一部メディアで、奨学金を返済できずに経済的苦境にあえぐ奨学生に対して中傷を浴びせているが、実態を知らないなら不勉強、知っててやっているならば犯罪だ。舛添厚労相ではないが、某コラムニストを「牢屋にぶちこみたい」。(崎)

(2008年10月29日付常陽新聞社会面掲載。)