HOME>コラム

コラム 記者の呟き

 先日、牛久市内で取材した「あしなが学生募金」の担当者からお礼の電話が来た。社会を良くする記事を書いてこそ「記者冥利」につきる▼4日付東京新聞「東京写真帳」には、「あしなが育英会」のメンバーたちが、「貧困の世襲」問題などを訴えて都内をデモ行進する写真と、派遣労働者が「残業代よこせ」のむしろ旗を掲げてデモ行進する写真が掲載されていた。まさに現代を象徴する光景だ▼今の日本では「貧困の世襲」というありがたくない「世襲」が問題になっている。とりわけ母子家庭や両親が非正規労働者の家庭などに起こりうる▼私の父は5歳の時に父親を亡くした「母子家庭」の出身。多くの兄弟姉妹を抱えて家計は苦しかったが、何とか高校まで進学して市役所職員に就職。家庭を持つことができて、今年3月に課長補佐で定年退職を迎えた。父の場合は「教育」が「貧困の連鎖」を打ち破ったが、現在の日本では「貧困の連鎖」を打ち破るのは非常に困難を伴う。(崎)

(2008年11月6日付常陽新聞社会面掲載。)


 元朝日新聞編集委員でニュースキャスターの筑紫哲也氏(73)が、7日夜に亡くなった。翌日の8日付朝日新聞で太田昌秀・元沖縄県知事は「弱い立場の者へのまなざしと正義感にあふれた人だった」、辻本清美衆院議員は「平和や平等に強いこだわりを持って、戦後の一つのともしびのような役割を果たしてこられた」と、哀悼の意を表明した▼筑紫氏は「弱者の立場に立ち、社会正義を貫く」「平和・平等を追求する」という「ジャーナリストの本分」に極めて忠実で、そのため筑紫氏を尊敬する若手のマスメディア所属記者やフリー記者も少なくない。一方でジャーナリストの本分を貫いたがゆえに、偏狭な思想信条の持ち主からは敵視され、一部ネット掲示板では「祝!筑紫哲也死亡」などの書き込みが見られた▼筑紫氏亡き今、私たち若手記者ができるのは、筑紫氏の後に続き「問題意識を持って弱者の立場に立ち、社会正義を貫く記事を書き続ける」ことが故人への最大の供養だ。(崎)

(2008年11月12日付常陽新聞社会面掲載。)


 「夢の世界の住人」。11日付産経新聞に意見広告形式で掲載された田母神俊雄前航空幕僚長の自称「論文」を読んで、そんな言葉が浮かんだ▼私が大学生の頃にもこういう手合いは少なからずいたが、「あの人ちょっとヤバイ」とまともに相手にされなかった。だが、ここ10年来は田母神前幕僚長のような偏狭なナショナリズムの持ち主が活発に活動している。背景には長期化した不況などがあり、偏狭な思想信条の下に「国家」という強いものにすがりたい心情がある▼ドイツでも不況期にはネオナチが活発化して外国人排斥運動を行うように、先行き不透明な時期には「愛国心」を食い物にする勢力がはびこる傾向が見られる▼過去の歴史に誠実に向き合い、偏狭なナショナリズムを批判する人間を「反日思想の持ち主」と中傷するが、「過去の汚点は見たくない」という条件付きでしか国を愛せない「ひ弱な愛国者」の「愛国者ごっこ」に付き合っているほど世間は暇ではない。(崎)

(2008年11月19日付常陽新聞社会面掲載。)


 稲敷市で飲酒運転を起こして逮捕された警視庁警視(50)の件について、「なぜタクシーや運転代行を使わなかったのだろう」との疑問が浮かんだ▼警視の自宅にほど近いJR佐貫駅から、現場の稲敷市浮島のキャンプ場までの距離は約35・4㌔。タクシーを利用すると片道で日中は約1万2410円、深夜でも約1万4930円だ。運転代行だと、1㌔500円の会社で、利用料金は片道で約1万8000円。一見すると高いかもしれないが、警視庁の給料で払える範囲内の金額で「2万円でクビがつながる」と思えば安いものだ▼かつて無料情報誌編集部に勤務していた頃、当時の江戸崎町の飲食店関係者から「酒気帯び運転の罰金が30万円に引き上げられたから、客が来なくなった」との嘆き節を聞かされた。今では土浦市やつくば市の一部飲食店では送迎サービスを行い、龍ケ崎市内の焼肉店では運転代行1割引きサービス券を用意するなど、飲酒運転抑止への営業努力が行われている。(崎)

(2008年11月26日付常陽新聞社会面掲載。)