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コラム 記者の呟き

 約6年前、広告代理店勤務時代の元同僚に誘われた会合の席で、当時20代前半の建設業の男性に会った。「茨城県から来た」と言うと、男性は「一時期牛久にいた」と語った上で「牛久に少年院があるの知ってます?そこにいたんですよ」と続けた▼男性はいじめが原因で「いじめられないために」不良少年となり非行を繰り返し、牛久市の「茨城農芸学院」に収容された。同学院を出た後は建設会社でまじめに働くなど更生を果たしている▼同学院内では少年たちの生活指導のほかに農作業や土木建築、溶接などの職業指導を行い、建設機械などの大型特殊自動車運転免許の取得指導も実施。「職業資格の取得指導、体験学習、心の教育」に重点を置いている▼非行少年を更生させる施設において、施設職員が部下の教官に対して「部下いじめ」としか解釈できない行為が起きたことは理解に苦しむ。まして、同学院側が記者会見で事件の背景をかたくなに拒否するのは、なおさら理解しがたい。(崎)

(2009年12月3日付常陽新聞社会面掲載。)


 「キャバクラで働く女性従業員の労組が近く結成」とのニュースが、新聞各紙で報道された。「キャバクラ女性従業員が労組結成」と聞くと、「水商売のくせに」などの偏見の目で見られがちだが、キャバクラ女性従業員を取り巻く現状は厳しい▼労組結成に尽力したフリーター全般労働組合関係者によると「遅刻○分につき罰金1万円」は序の口で、社会保険未加入、店を辞める月の給料は支払われない、過大なノルマを課されるなど、労働環境はかなり劣悪で、ほとんどの女性従業員は泣き寝入りを強いられるという▼一部女子中高生の間では「キャバクラで働きたい」と人気を集めているが、背景には高校生の就職難で、正社員の雇用はほとんど無く、時給800円台のアルバイトの仕事しか無いため「時給3000円で楽に稼げる」などの"虚像"が先行している▼もし、中高生たちが「罰金漬け」「ノルマ漬け」という現実を知ったら、「キャバクラで働きたい」とは言わないだろう。(崎)

(2009年12月10日付常陽新聞社会面掲載。)


 「布川事件で最高裁が再審開始決定」との一報を受け、急きょ記者会見が行われる東京へ向かった。会見場近くでは、駆け付けた支援者たちから祝福の言葉が聞かれ、午後6時開始の記者会見の冒頭では、桜井昌司さん(62)と杉山卓男さん(63)の2人に支援者から花束が贈られた▼会見で桜井さんは「腕時計ができない」と明かした。無実の罪で刑務所に服役したという心的傷害が、腕時計を拒絶させたのだろう。「無実になったら腕時計ができるかも」と、再審に期待を寄せていた▼杉山さんは取り調べで虚偽の自白をするまでの心理状態について「(取調官に)信じてもらえないのがつらい。目の前(の苦痛)から逃げたい」と述べた上で「こういう立場に立つまで、ありえないと思っていた」と語った。同様の話は、栃木県の「足利事件」や鹿児島県の「志布志事件」などでもあった。▼これからの再審では、42年間苦労した2人のためにも「えん罪の闇」が解明されることを希望したい。(崎)

(2009年12月17日付常陽新聞社会面掲載。)


 「民主党幹事長、小沢一郎様」。先日開かれた妹の結婚式披露宴の祝電披露で名前が出たとき、多くの出席者からどよめきが出た。同席した父はまんざらでもないような表情を浮かべた。「苦難を乗り越えて大成し、娘の結婚式に政権与党の大物から祝電が来るまでになった」という感慨深いものがあるのだろう、と推測した▼結婚式の晩に父と2人で飲み直していると、父から「終身雇用制度が日本の強み云々…」など、高度経済成長期の日本を懐かしみ、田中角栄元首相の弟子に当たる小沢氏を持ち上げ、小泉元首相ら「構造改革派」をこきおろす「居酒屋政談」じみた話を延々と聞かされた。まるで「新聞記者にレクチャーする市役所幹部」気取りだった▼実家に帰省するたび、父から「居酒屋政談」を、母からグチを聞かされるのだが「両親は"精神面で癒されたい"のだな」と、兄弟たちが両親の話相手を避ける中であえて"話の聴き役"に徹している。心を癒すのは、並大抵の芸当ではできない。(崎)

(2009年12月24日付常陽新聞社会面掲載。)


 31日放送のNHK紅白歌合戦に、声優の水樹奈々さんが初出場する。水樹さんの公式ホームページによると、出身地である愛媛県新居浜市の市長をはじめ地元関係者からのメッセージDVDが贈られ、地元紙の取材を受けるなど、さながら「地元の名士」並みの扱いを受けている▼ここ15年ほどの間で声優が若年層の間で人気を集めており、書店では声優専門誌が販売されている。声優に憧れる10代から20代の若者が、声優養成所に入所する事例も続いている▼以前、アルバイト先で、「声優になりたい」として会社を辞めて、アルバイトのかたわら大手声優事務所のオーディションを受けた20代前半の男性がいた。幸いにも合格して「特待生」として事務所に所属したものの、その後の活躍を聞かない▼声優の世界は"夢"や"憧れ"だけでは乗り切れない厳しい世界ゆえ、夢半ばで挫折した声優志望者も数多くいる。だからこそ、幾多の困難に打ち勝ってきた声優たちに心から賛辞を送りたい。(崎)

(2009年12月31日付常陽新聞社会面掲載。)