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コラム 記者の呟き

 メーデーは今から123年前、米国シカゴで労働者たちが「8時間労働」を求めて運動したのが発端である。しかし、21世紀の日本では「8時間労働」は一部の職場にとどまり、長時間労働、過労死、不払い残業、名ばかり管理職といった惨状がまん延している▼24時間営業の一部外食チェーン店では、労働時間に関して「1回転」という用語がある。その意味は「1日24時間、1回転するまで働かされる」ところから来ている▼外食産業は過重労働が敬遠されて人材が集まりにくく、パート・アルバイトのシフトが編成しにくい。そのためシフトの穴埋めに正社員店長や契約社員、または事情を抱えた"訳あり"のアルバイト店員がこのような過重労働を行っている。とりわけ時給が安いアルバイトにとっては「8時間労働」では生活できないため、長時間労働をせざるを得ない現状がある▼「貧困か、さもなくば過労死か」メーデーの理想とは対極的な「苛酷な現実」がこの国にはある。(崎)

(2009年5月15日付常陽新聞社会面掲載。)


 「年越し派遣村」で、全国紙記者として入社が内定していた大学4年生が、ボランティアとして活動していた。「入社後は福島県に赴任することになっています」という大学生は、今ごろは福島支局に赴任して、県警担当かたわら、自分なりの「問題意識」を持って自分で取材テーマを見つけて記事の取材していることだろう▼記者にとって「問題意識を持つ」ことの重要さは、何ものにも代えがたい。あるベテラン記者は「文章力は後からついてくる。まずは問題意識を持つことが大事」と熱く語った▼記者の新人研修で記事の「形通りの書き方」は教えられたことだろう。しかし「問題意識の持ち方」は、他人から教えられてどうこうなるものではなく、新人記者本人の日常の心がけ次第だ▼以前に本欄で「席で待っていたら、真実が歩いてきてくれますか?」という、全国紙のCMの一節を紹介したが、この言葉を、弊社を含め県内の新聞社各社の新人記者はぜひ胸に刻み込んで欲しい。(崎)

(2009年5月21日付常陽新聞社会面掲載。)


 以前、一部全国紙で「政治家の条件は『貧』と『苦』のいずれかを経験すること」という趣旨の発言が掲載されていた▼先月本県を訪れた亀井静香氏は、広島県の山間部出身で、貧しいながらも苦学の末に警察庁に入庁。いわゆる「キャリア組」だが、現場の警察官と一緒に現場に立ったという。今月本県を訪れた鈴木宗男氏は北海道の寒村の出身で、子どものころは麦ご飯しか食べられず、1961年まで電気も無い生活を送っていたという。亀井、鈴木両氏とも「貧」と「苦」の両方を経験しているがゆえ、「人の痛みの分かる政治家」として、いまだに人気が高い▼だが現在では「貧」も「苦」も未経験の世襲政治家が国会議員の一定数を占めている。「貧」も「苦」も知らない…いや、知ろうとさえしない政治家に何が分かるのだろうか。テレビの討論番組で、威勢のいい受け狙い発言をしている暇があるのなら、「年越し派遣村」に赴いた鈴木氏を見習うべきではないだろうか。(崎)

(2009年5月29日付常陽新聞社会面掲載。)