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コラム 記者の呟き

 報道部に配属され1ケ月。31歳「遅咲き」新人記者は、猛暑の中で担当市町村を取材で回り、時には東京へ遠征する日々を送る▼「私が倒れたら、代わりはいないもの」と、アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の登場人物のセリフをもじって、ニンニクとニラを大量に入れたラーメンで夏バテ防止と精力増強に努めている。「バテちゃダメだ、バテちゃダメだ、バテちゃダメだ…」▼よく「健康管理も仕事のうち」と言われるが、そういうセリフを連呼する会社ほど、有給休暇は形だけで、従業員を過労死するまで酷使する傾向が見られる。かつて勤務していた広告代理店や情報誌編集部でもその傾向に当てはまり、上司が「健康管理も~」と言うたび、「倒れるまでサービス残業でタダ働きさせて、何が『健康管理も仕事のうち』だ」と反発を感じていた▼「健康管理も~」と言うのなら、休養させるのも健康管理の範囲内。人間を酷使の末に使い捨てにする「ブラック企業」に、未来は無い。(崎)

(2008年8月6日付常陽新聞社会面掲載。)


 先日、ファッション誌から書籍編集に異動した女性編集者の呼びかけで、業界紙記者の友人と一緒に東京・奥多摩でのキャンプに参加した。仕事を終えて茨城から電車で3時間かけて向かい、夜遅くに到着▼キャンプ場のバンガローには他に、女性編集者が編集専門学校在学時代などに知り合った若手の書籍・雑誌編集者たちが集まっていた。初顔合わせにもかかわらず、まるで学生時代に戻ったかのように盛り上がった。半袖白ワイシャツ姿の私を見て「引率の先生みたい」と女性編集者▼彼らと語らいながらつい「荒川沖や秋葉原殺傷事件の容疑者に、こんな仲間がいたのかな」とポツリ。キャンプ参加者の大半は就職氷河期時代を過ごし、苦労してやっと新聞社や出版社に中途入社して働いている。もし両容疑者に弱音を言いあい、苦楽を分かち合える間柄の友人がいれば、孤独の闇に引きこもっての犯行は起きなかったかもしれない。何が両容疑者と私たちとを分けたのだろうか?(崎)

(2008年8月13日付常陽新聞社会面掲載。)


 「オラんどこの長男坊が、茨城の新聞社の記者サなった」お盆のため岩手県に帰省中、父の友人たちが集まった飲み会の席上で、自慢げに紹介した。同席した私は父の友人たちに名刺を配り、焼酎の水割りを作り、一緒に飲んでは愛想笑いを振りまいた▼故郷では息子や娘の勤め先がその家の財力や格式を示すとされ、県庁や市役所職員、教員、警察官などは「勝ち組」扱い。「官尊民卑」の風潮が根強く残る中でも、新聞記者などのメディア関係者や大手企業、銀行などの地元優良企業は公務員と同等扱い。反対にフリーターは、公務員受験など特別な理由が無い限り「家の恥」扱いされ、隣近所や親せきで格好の話題。アルバイトしながら新聞社などの就職活動していた頃、帰省のたびに父から「新聞記者にこだわるな」と説教され、公務員試験の受験を強要された▼まるで「大日本帝国憲法の治世下」のように閉鎖的で封建的。若者が東北を脱出、略して「脱北」するのも無理はない。(崎)

(2008年8月21日付常陽新聞社会面掲載。)


 「あれじゃワラス(東北地方で『子ども』の意味)がかわいそうだ」ある知人の家で、お盆のあいさつ回りに赤ちゃんを連れて来た親戚夫婦が帰った後、家族の一人が吐き捨てるように言った、と聞かされた▼問題の親戚(30代後半)は、地元高校を出てから関東地方に出て結婚。諸般の事情で東北地方に戻ったが、過去にいくつもの職を転々としている。最近も工場を短期間で退職し、現在は地元の精神病院に勤務しているが、別の親族は「看護の仕事には向かない」と手厳しい▼経済誌「週刊ダイヤモンド」8月30日号の「格差世襲」特集では、世襲化する日本の貧困の実態が報告されていた。かつては「教育が貧困からの脱出の手段」だったが、現在では教育にかかる費用をねん出できない限り、貧困からの脱出はほぼ不可能。親の経済力が子どもの将来を事実上左右している▼親戚の奥さんが「しっかりしている」のが救いだが、個人の資質だけでは「格差世襲」は防げない。教育への公的支援が必要だ。(崎)

(2008年8月27日付常陽新聞社会面掲載。)