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コラム 記者の呟き

 「二度もぶった…。親父にもぶたれたことないのに!」「殴られもせずに、一人前になったやつがどこにいるものか!」―。テレビアニメ「機動戦士ガンダム」での印象的な1コマだ▼前者のセリフは有名ゆえ"ガンダム芸人"と称するお笑いタレントがよく引用する。このため、後者のセリフはやや忘れられがちだ。「軍隊社会の論理」と言えばそれまでだが、私たちの社会でも、困難から逃げずに他者と正面から真剣に向き合わなくては、人間的な成長は望めないのではないだろうか▼先月、本紙はじめ全国紙各紙で、荒川沖連続殺傷事件の被告に関する記事が掲載されたが、まともな家族間の対話すらない「崩壊家庭」とも呼べる被告の家庭環境や、困難から逃げて社会と正面から向き合わず、自分だけの心地よい世界に閉じこもる被告の精神的な幼稚さが印象に残る▼「殴られもせずに、一人前になったやつがどこにいるものか!」被告はこの言葉をどう解釈したのだろうか?(崎)

(2009年4月2日付常陽新聞社会面掲載。)


 4月6日~12日は「春の新聞週間」。近年はインターネットの普及で「ニュースはネットで十分」と、新聞を読まない若年層が増えている。しかし「新聞を読まないデメリット」について申し上げたい▼某大企業での1次面接会場でのやりとり。面接官「新聞は読んでいますか?」大学生「新聞は読んでいません。ネットで足りています」面接官「…もう結構です」後日、大学生に「不採用」の通知が届いた。なぜ落ちたか分かるだろうか?▼社会人にとって出勤前に新聞を読むのも「仕事のうち」で、有名企業勤務となれば「今日の日経か朝日読んだ?」はあいさつ代わり。新聞を読まない人間は"半人前"と見なされる。前述のやりとりでは、大学生は面接官から「この人間は"半人前"」と判断されたため、不採用となった▼「有名企業の内定が欲しい」と言って新聞を読まないのは、宝くじを買わずに1等賞金を欲しがるに等しい行為。大人社会はそんなに甘くない。(崎)

(2009年4月8日付常陽新聞社会面掲載。)


 春になり、弊社はじめ新聞各社で新人記者が配属された。このコラムを読んでいるであろう各社の新人記者のみなさんに「一市民」としてお願いしたいことがある▼新人記者の多くは、大学を卒業してすぐ新聞社に入社した(就職浪人や他業種からの転職組を除く)と思う。取材現場に出たら、親子ほど年齢が離れた警察署の副署長や県警幹部、県庁や市役所職員などが取材対応にあたり、時には市町村長や政治家までもが「○○新聞」の名前を出すだけで会ってくれる▼そういう環境に慣れてしまうと「市民の視点」を忘れ、自分が偉くなったかのような錯覚に陥ってしまう恐れがある。実際に東京出張の際には、社員記者・フリーライター問わず「権力者気取り」の"勘違いマスコミ人"に出くわしたことが何度かある▼新人記者のみなさんには「○○新聞」の名前にあぐらをかくことなく、社会的立場の弱い人たちの「声無き声」を丹念に拾って、市民目線での報道をお願いしたい。(崎)

(2009年4月16日付常陽新聞社会面掲載。)


 拉致被害者家族・飯塚耕一郎氏の講演開始から数分後、男が小声で「つまんね」と吐き捨てるように言い、会場から立ち去った。あまりの無神経ぶりに絶句した▼男の着衣や言動などから、インターネット掲示板の重度利用者、通称「2ちゃんねらー」と推定される。男は講演会で北朝鮮叩きの演説が聞けると考えたが、予想に反したため途中退席したと考えられる。拉致問題を口実に、日頃からネット掲示板で主張する在日朝鮮人差別を正当化したかったとしか思えない▼一方、埼玉県蕨市では「不法滞在外国人排斥」を主張する"自称愛国者"の民族差別主義者ら約100人が「デモ」と称して、フィリピン人女子中学生の通う中学校で脅迫行為を行った。デモの趣旨から言えば、東京入国管理局で行動するのが筋のはず▼「愛国主義は無頼漢たちの最後の避難所である」と、英国の文学者サミュエル・ジョンソンが言ったが、「愛国心」を口実にした民族差別犯罪は絶対許されない。(崎)

(2009年4月23日付常陽新聞社会面掲載。)


 「9+21+25」一見すると小学校の算数問題のように見えるが、これらの数字は日本国憲法条文の数字を合わせたもの▼「ルポ貧困大国アメリカ」の著者でジャーナリストの堤美果さんが、昨年の民放ラジオ報道番組で「9条(戦争放棄)と21条(集会・結社・表現の自由)と25条(国民の生存権、国の社会的保障義務)は三位一体」と語った。堤さんの著書を読んで「戦争と貧困は地続きの関係」ということを認識させられた▼これまでの「護憲運動」は「9条を守る」ことに重点が置かれたが、非正規労働者への「現在進行形で起きている憲法25条違反」に対して「"護憲派"が何もしなかった」と解釈されたため、貧困に苦しむ若年層などから「9条しか守ろうとしない"護憲運動"」への反感がうっ積していた▼今年の憲法記念日集会では「戦争と貧困は地続きの関係」ということを、どこまで貧困に苦しむ若年層に届くよう訴えかけていくのか。「護憲派」の力量が問われている。(崎)

(2009年4月30日付常陽新聞社会面掲載。)