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コラム 記者の呟き

 「おととしに工場をクビになった」。正月に帰省した岩手県で、ある知人の近況を聞かされた▼20代前半の男性は、携帯電話部品製造会社の下請け企業で正社員として働いていたが、2008年秋に人員削減のため解雇された。従業員を社会保険に一切加入させない「違法行為」を平然と行う中小企業が多い中で、男性の勤務先は"比較的良心的"なため、雇用保険に加入させていたので、失業手当を受給できた▼ハローワークの担当者から「2級ヘルパーの資格を取れば仕事を紹介する」と言われ2級ヘルパー資格を取得し、昨年のうちに地元の病院で介護の仕事を得ることができ、無事に年越しできた▼昨年の「年越し派遣村」で、岩手県出身者の男性から「派遣切り」の実態を取材していたころ、同じ時期に故郷では20代の若者が「正社員切り」の被害に遭っていた実態にがく然とした。「東京都が運営する"官営派遣村"に約800人」のテレビニュースを見て、再度言葉を失った。(崎)

(2010年1月8日付常陽新聞社会面掲載。)


 「冬の兵士」―。と言っても、韓国のテレビドラマ「冬のソナタ」の新シリーズではない。元々は米国独立戦争の故事にちなみ「冬の厳しい時代に戦う真の愛国者」を指す。1971年にはベトナム戦争の帰還兵たちが、戦争終結を訴えるために開いた公聴会の名称にも使用した▼2008年3月にはイラク帰還兵たちが戦争終結を訴えて、当時と同名の公聴会を開催。田保寿一監督が帰還兵たちの証言を取り上げたドキュメントDVD「冬の兵士~良心の告発」を製作した▼転じて「真の愛国者とは何か」と考えさせられたのは「公設派遣村の一部入所者のトラブル」の一件だ。11日の本紙「紫音」では「権力者が弱者の非をののしり、差別や偏見を生みだす手口を目撃した嫌な気分になった」と、石原慎太郎都知事やその同調者を批判している▼一部入所者の落ち度をあげつらう「自称・愛国者」と、湯浅誠氏ら反貧困運動にたずさわる人々の、どちらが「冬の兵士」と呼ぶにふさわしいだろうか?(崎)

(2010年1月14日付常陽新聞社会面掲載。)


 「困窮をされているのであれば、困窮を解消する策を市としては、していかなければならない」。龍ケ崎市の中山一生市長は18日の市長就任記者会見で、同市内に居住する路上生活者を含めた生活困窮者への対策について語った▼今月上旬に新聞各紙で牛久沼湖畔に住む路上生活者のことが取り上げられ、近隣の市議から問い合わせの電話が入るほど話題を呼んだ。路上生活者のほかに、近隣地域では「低額宿泊所」が存在するなど、目立たないながらも"貧困問題"は存在する▼中山市長は「構造的に生まれてしまった弱者や困っている人たちを助けるのは、大きな役割のひとつ」と述べたほか、一部自治体で問題になった「生活保護申請の受付拒否」についても「龍ケ崎市に関しては(生活保護申請の受付拒否が)あり得ないと信じている。あってはならない」との見解を示した▼生活困窮者の救済は財政面での困難が伴うが、それを乗り越えて、ぜひ「人を大事にする市政」を実現していただきたい。(崎)

(2010年1月21日付常陽新聞社会面掲載。)


 「働く場所で大切にされた経験が少ない」。非正規労働者の労働問題に取り組む、清水直子・フリーター全般労働組合執行委員は、つくば市内での会合で、若い非正規労働者が抱える問題について語った▼清水さんは、かつての企業では▽年長者からていねいに仕事を教えてもらえる▽仕事の技術が身につき、自分に自信が持てる▽会社の業績に向上し、賃金が上がる―という好循環があったが、現在では▽仕事を十分に教えてもらえない▽短期間の非正規雇用のため技術が身に付かず、自信を持つ機会が少ない▽賃金が上がらない―という悪循環を指摘した▼「仲間の協力でトラブルを解決することを通して『やればできる』と(労組が)自信をつける場になる」と、同労組が非正規労働者の傷つけられた自尊心を回復する場になっている現状を語った▼もし、秋葉原無差別殺傷事件の男性被告(27)が雇用問題などで同労組に相談していれば、暴力によらない解決法が見いだせたかもしれない。(崎)

(2010年1月28日付常陽新聞社会面掲載。)