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「自由と生存の家」から再出発 48歳男性が語る苦難の日々

北海道から愛知、長野、茨城…、そして東京へ

国の救済から漏れる派遣労働者

自由と生存の家

オープニングセレモニーで多くの報道関係者が集まった「自由と生存の家」前=東京都新宿区愛住町

 守谷市内の自動車部品工場で今年1月末に解雇された派遣社員の男性(48)がこのほど、東京都新宿区に開設された「自由と生存の家」(フリーター全般労働組合などが運営するアパート)でインタビューに応じ、解雇されてから「自由と生存の家」までたどりついたこれまでのいきさつを語った。男性の体験談からは、雇用調整助成金制度など、国の失業者救済制度から漏れる派遣労働者の姿が浮かび上がる。(崎山勝功)

北海道から仕事求め


 男性は北海道出身。仕事を求めて愛知県にある自動車工場の期間工の面接を道内で受けた。道内では合格したが、現地での面接は不合格。仕事を求めて長野県に行き、ホテルの営業マンの職に就いた。身分上は「副社員」という肩書だが、日給は6000円。ホテルの寮で月2万円の寮費を払って生活した。主に老人会などを対象に営業活動を行ったが苦戦を強いられた。

 あまりにも生活が厳しく、新たな仕事を求めて東京に行き、たまたま見たスポーツ新聞で派遣会社を知った。派遣元の求めに応じて茨城県へ向かった。

給料から「天引き」


 男性はいくつかの工場に派遣された後、守谷市の自動車部品工場に派遣された。いわゆる孫請けの工場で、時給は1000円。1カ月の額面上の給料は多い時で22~23万円になったが、給料から寮費として4万3000円が天引きされ、さらに税金、社会保険料、光熱費のほか、ふとんレンタル代1800円、テレビレンタル代1300円など生活用品のレンタル代まで徴収された。手取りは12万円程度しか残らなかった。

 派遣会社では「仮払い制度」を設け、生活に困窮した派遣労働者が給料を前借りできるようになっている。男性も同制度を利用していたため、手元に残ったのは約5万円ほどだった。

 景気が悪化した昨年の秋ごろから、残業時間が減らされた。時給の派遣社員にとっては収入減を意味した。ある月は、額面上の収入は約16万円だったが、寮費や生活用品レンタル代などとして約10万円徴収され、さらに仮払い金返済分も徴収されたため、手元には3万円しか残らなかった。貯金も底をついた。

調整金受け取れず


 景気の悪化が加速すると、工場の生産ラインが止まることが増えた。その際、国からの「雇用調整金」が支給されるはずだったが、実際に受け取れたのは正社員のみ(金額は6400円)。男性を含む派遣労働者は1円も受け取れなかった。

 工場が休業すると、派遣会社から「休業補償」として日給8000円の60%分、4800円が支払われた。しかし月収に換算すると、15万円を下回った。毎月必ず10万円が差し引かれたため、男性は生活困難に陥った。今年の1月末に解雇されたとき、手持ち金額は2万2000円だった。

野宿と変わらない


 解雇後、派遣会社の寮で約1カ月間生活していたころ、労働組合の「派遣切りホットライン」に連絡。助言を受けてハローワークに相談に行き、筑西市内の市営住宅を紹介された。

 しかし市営住宅は暖房が無いどころか、電気は通っているが、蛍光灯も無い部屋だった。男性は生活用品を用意するため、10万円まで借りられる失業者向け融資を受けようと労働金庫に申し込んだが、断られた。

 2月の寒い中、男性は手持ちのカセットコンロでラーメンを作って約2週間ほどしのいだ。市営住宅といってももはや、「野宿」と変わらない生活水準だった。

 市営住宅を出て東京に向かい、労働組合の紹介で都内の路上生活者緊急一時保護センターに身を寄せることができた。男性は「労組の人がいたからすぐに入れた。普通は申請から何週間も待たされる」と振り返る。

 センターは就労意欲がある人を対象に、原則2カ月の入所期間で、食事の提供を行い、職業、住宅などの相談に当たり、路上生活者の就労による自立を促進する施設。男性によると、施設内は団体生活で、若者や中国人と思われる外国人の姿もあったという。

 センターに2週間ほど滞在したのち、当時まだ改装途中だった「自由と生存の家」に入居。入居してから、失業保険と生活保護(失業保険給付分を差し引き支給)を受給し、現在は再就職を目指している。

 男性が以前住んでいた守谷市内の寮では、同じ派遣会社に勤務していた元同僚が、「派遣切り」を苦に自殺した。男性は自殺した同僚のことを語り、「雇用保険と生活保護の狭間にいる人を助けて欲しい」と訴えた。

6割が180万以下


 「自由と生存の家」を運営するフリーター全般労働組合によると、組合員約150人中6割が年収180万円以下で、家賃負担に苦しむ人も多いという。

 同労組は「生活基盤である住居を充実させる必要がある」との考えから実行委員会を組織し、地元の不動産業者の協力を得て昨年暮れから、築約40年の木造2階建てアパートを改築し、組合員向けの共同住宅を開設した。家賃は月3万5000円~6万円で、保証人や礼金は無し。敷金は家賃に応じて月額約5000円の積立方式で支払いを受ける。

 同住宅の開設に尽力した実行委員会の菊地謙さんは「『自由と生存の家』のような住居をどんどん増やしていきたい」と語り、現在募金を呼び掛けている。

 問い合わせ先は同実行委員会(電話、ファクス03・3373・0180、メールアドレスfreeter.jutaku@gmail.com)まで。

(2009年6月22日付「常陽新聞」1面掲載。日付、肩書きなどは掲載当時のまま。)