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「あしなが育英会」募金が前年比1割減

「高校授業料無償化」でもかかる費用

募金活動をする「あしなが学生募金」の奨学生

募金活動をする「あしなが学生募金」の奨学生=牛久市牛久町のJR牛久駅西口前

 「病気・災害・自死(自殺)遺児家庭に奨学金を」を訴え「第79回あしなが学生募金」(あしなが学生募金事務局主催)が、10月17日から25日までの合計4日間にわたり、全国約250カ所で行われた。本県でも牛久市牛久町のJR牛久駅西口前など県内6カ所で行われ、市民たちに募金を呼びかけた。しかし、同事務局によると「17、18日の2日間は前年に比べ約1割減少」と、前半は募金が低調だったという。遺児たちの現状をまとめた(崎山勝功)

「高校授業料無償化」ですべて無料?


 民主党新政権は、マニフェストの一環として「高校授業料の無償化」を掲げており、早ければ来年度にも実施が見込まれる。しかし、無償化になるのはあくまでも「授業料」(公立高校では約12万円)のみ。公立の全日制高校の場合、制服代、教科書代、通学の交通費、修学旅行積立金などの「学校教育費」や、進学塾などの「学校外活動費」で合計年間40万円も掛かる。また私立高校の場合では同様の費用が約80万円掛かる。しかし、同事務局には「高校授業料無償化で奨学金は不要なのでは」という声が多く寄せられ、募金活動前半での募金額の低調につながったと分析する。なお、全国の一部地域では募金活動後半で盛り返した地区もあったという。

 牛久駅前で募金活動にあたった常磐大学2年の高橋祐太さん(20)は「(高校)授業料免除は遺児には役立つ」と民主党の政策を歓迎しつつ、「交通費、食費、教材費などが掛かる」と、奨学金を受けている遺児の実情を明かした。

低い母子家庭の年収


 同事務局によると、病気・災害・自死(自殺)遺児母子家庭の年収は2009年度調査で134万円、一般サラリーマン年収437万円の約3割。そのうち親子3人世帯で年収200万円未満の生活保護基準以下の世帯が76・5%を占めている。また厚生労働省が発表した日本の「相対的貧困率」は07年度15・7%と、04年度の14・9%よりも悪化し、OECD(経済協力開発機構)加盟30カ国中ワースト4位。このうち、子どもの貧困率は1人親家庭の子ども(18歳未満)が58%と高い。このため、高校や大学などの進学は「あしなが育英会」の奨学金なしではほぼ不可能だ。

 高校3年生のときに「親を自殺で亡くした」という高橋さんは「推薦入試で大学進学は決まっていたが、お金が無いのが分かっていたので悩んでいたところに『あしなが育英会』があった」と、奨学金で無事進学できた状況を語った。

進学断念による「貧困の連鎖」


 現在医療系大学に通う遺児の1人は「(高校や大学などに)進学できなければ資格もとれない。その後の就職にも影響を及ぼす」と、進学できないことによる「貧困の連鎖」を懸念する。自身も小学校3年生の時に父親を自殺で亡くし、高校や大学には「あしなが育英会」の奨学金で進学した。

 同事務局では「教育が遺児の貧困を断ち切る」として▽生活するのが精一杯で教育費が払えないため「学校に通えない」▽学校に通えないために、社会で生きていくための知識・技術が身につかないため「仕事がない」▽パートなどの収入が不安定な仕事しか就けないため「収入がない」、といった「貧困のサイクル」が図解入りで書かれたチラシを募金活動で配布し、「教育を受けることで遺児は(貧困の)サイクルから抜け出せる」として奨学金の必要性を強く訴えている。

 しかし、同事務局の職員からは「実際に(大学や専門学校などの)進学をあきらめた遺児が約40%いる」とした上で「高校を中退した子がいる可能性もある」と、経済的理由で高校中退した遺児がいる可能性を示唆した。高校生の中にはアルバイトなどで働きながら定時制や通信制高校などに通う遺児も見られるが、「アルバイト代を家計の足しにする」事例もあるという。さらに長引く不況で労働環境が悪化し、時給カットや労働時間の短縮、さらには一部職場ではパート・アルバイトに「サービス残業の強要」をしているところも見られるという。このため、遺児たちは「(遺児家庭の)貧困のサイクルを止めるにも奨学金が必要」と、奨学金の必要性を強く訴えている。

増える奨学金希望者


 あしなが育英会が貸与している奨学金は▽高校・高等専門学校で国公立2万5000円、私立3万円▽大学・短大は一般4万円、特別5万円▽専門学校は4万円▽大学院は8万円の4種類。奨学金を希望する世帯は年々急増しており、2008年度は2234人が奨学金を受けているが、今後増加が見込まれる。しかし、急増する奨学金希望に対して奨学金が追いつかず、約6000人の奨学金希望者のうち、高校生は希望者全員に貸与しているが、大学生などは試験で選考した上で貸与しているという。同事務局では「(奨学金を希望する)すべての人にはお貸しできない」と語った。

 現在、募金活動は郵便振替での募金(口座番号00140・1・541731、口座名「あしなが育英会」)のほか、クレジットカードからの募金も受け付けている。問合せ先は同事務局(電話03・3221・7788)まで。

(2009年11月1日付「常陽新聞」1面掲載。日付、肩書きなどは掲載当時のまま。)