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タクシー運転手の憂うつ

1時間以上待っても710円 生活が成り立たない

客待ちのタクシー

客待ちしているタクシー=龍ケ崎市佐貫のJR佐貫駅東口

 「100年に一度の大不況」と言われるが、影響を強く受けているのが、タクシー運転手である。厚生労働省の2007年度の調査によると、本県のタクシー運転手の平均年収は324万8300円で、本県全産業男性の平均年収556万8900円に比べ、およそ232万600円も低い水準となっている。県内各地の運転手たちを取材した。(崎山勝功)

取手の運転手「佐貫まで?まるで神様だ!」


 1月下旬の夜、取手市内のスーパー銭湯でタクシーを呼んだ。

―すいません、龍ケ崎市佐貫のJR佐貫駅までお願いします。

「佐貫まで?了解!」

―どうですか、景気のほうは?

「取手はさっぱりダメだね。キヤノン(取手事業所)とか景気が悪いし。きょうなんか、朝の5時から仕事しているけど、取手駅前で1時間以上客待ちしても、来るお客はワンメーター(初乗り運賃710円区間)ばかり。お客さんが『佐貫まで』って言うんで、ほんと助かったよ」

―売上げがそんなにひどいんですか?

「きょうはまだ売上げが1万円に達していなくて、どうしようかと思ったよ。そしたら『佐貫まで』だから、棚からぼたもち。まるでお客さんが『神様』に見えるよ。当分は佐貫の方向に足を向けて寝られないね」

龍ケ崎の運転手「深夜2時にはほとんど終わる」


 同じく同月下旬の午後、関東鉄道竜ケ崎駅で客待ちしているタクシーに乗車した。

―お客さんの入りはどうですか?

「良くないね。みんなタクシー使わないから。済生会病院に行く人や(酒を)飲んだ人は使うけど…」

―いやに商店街が静かですね…。

「ここの商店街(本町通り商店街)は、昼間からシャッターを降ろして閉まっているところが多いからね」

 夕方に同市内で別のタクシーに乗車した。

―どうですか、景気は?

「悪いね。なかなか使わないから。佐貫駅から工業団地に向かう(県外からの)出張の人や、ゴルフ場に向かう人は別だけど」

―深夜はどうですか?

「一番の稼ぎ時は夜から深夜1時ごろまでだね。ニュータウン方面のバスが終った後、常磐線の終電で駅に降りた人が、佐貫駅前で乗る場合が多いから。でも、龍ケ崎のタクシーは深夜2時にはほとんど終わる。それ以上いても、仕事にならないから」

牛久の運転手「病院に行く人が多い」


 雨の中、JRひたち野うしく駅前で客待ちしているタクシーに乗車した。

―雨だと、利用するお客さんが多くないですか?

「けっこう多いね。ここ(ひたち野うしく駅)からだと、阿見町の霞ケ浦病院に通うのに乗る人が多いね」

―そういえば、取手の運転手さんが「朝5時から仕事して、1日の売上げが1万円いくかどうか」って言ってましたけど…

「取手って、そんなに景気悪いの!?その運転手さんって、年配の人じゃなかった?」

―そういえば…

「年金もらっている年配の運転手さんの場合は、一般の運転手と比べて4分の3の勤務日数しか稼働しないんですよ。1日16時間勤務で、1カ月14乗務ってところなんじゃないですか。でも1日1万円いくかいかないかは、ありえない」

   

都内でも「月収40万円」は不可能?


 タクシー運転手の賃金体系は、「基本給・年功給・家族手当・歩合制度、ボーナス付き」の通称「A型」と、「完全歩合制、ボーナス無し」の通称「B型」に大きく分けられる。「A型」はハイヤー常務のある会社では多いが、タクシー会社で採用しているところは少ない。大半のタクシー会社では、完全歩合制の「B型」を採用している。中には、完全歩合制だが給料の一部を積み立ててボーナスとして支払う通称「AB型」の賃金体系を採用するタクシー会社もある。

 一部全国紙やスポーツ紙に掲載されている、タクシー会社の乗務員求人広告には「都内で月収40万円以上」と出ているが、東京都内のタクシー運転手によると「月収40万円は無理」という。都内では規制緩和によりタクシーの台数が増え、利用客の奪い合いで運転手1人当りの収入は落ち込んでおり、「手取り20万円いくかな」というのが現状だ。

 タクシー会社では「足切り」と呼ばれる売上目標のノルマが設定される。例えば「足切り2万円で歩合率60%」の場合、2万円以上の売上げを達成できれば問題ないが、達成できないと歩合率が下がり給料が減る。このため、ノルマ達成ができないで収入減に苦しむ運転手も少なくない。

「庶民の足」から「セレブの足」へ?


 タクシーはかつては「庶民の足」と呼ばれたが、現在の初乗り料金は普通車710円。県の最低賃金が時給676円で、一般のパート・アルバイト時給が750円~800円と比較しても、割高感はぬぐえない。年金生活の高齢者が病院通いのためやむを得ず利用するにしても、経済的負担は少なくない。

 企業でもタクシー利用を制限するところが多い中、いまやタクシーに気軽に乗れるのは、高収入の「セレブ」だけになりつつある。

(2009年2月15日付「常陽新聞」1面掲載。日付、肩書きなどは掲載当時のまま。)