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「必ず立ち直ることできる」

多重債務解決への道のり 県南の20代元会社員の場合―

水戸地裁龍ケ崎支部

多重債務者の最後の砦となる裁判所=龍ケ崎市の水戸地裁龍ケ崎支部・龍ケ崎簡裁

 失業や低収入などによる生活苦のため、消費者金融などから借金を行い、返済のために借金を重ねる「多重債務」が全国的に社会問題になっている。政府の多重債務者対策本部は「全国一斉多重債務相談ウィーク」として、9月1日から12月31日まで相談などを受け付けている。県内でも弁護士事務所をはじめ、自治体の消費生活センターや多重債務被害者の会などへの相談が相次いでいるが、相談に訪れるのは「氷山の一角」で、潜在的な多重債務者は多いといわれる。実際に多重債務問題を解決した例を元に、問題の解決方法を考える。話を聞いた当時20代の元会社員(現在は会社に再就職)は「多重債務問題は、一人で抱え込まないで。家族に言えなくても、第三者に相談すれば必ず解決する」と強調する。(崎山勝功)

8社から500万円


 県南地方に住む20代の元会社員男性は2年前、取手市新町にある「多重債務者被害者の会(通称・県南ふれあいの会)」に相談に訪れた。相談するきっかけとなったのは、勤務していた会社を解雇されて、これまで借りては返すを繰り返し続けていた消費者金融など8社の借金500万円の返済に行き詰まったことだった。

 日雇い派遣やアルバイトの仕事では生活するのが精いっぱいで、これまで通りの返済が難しい状態。相談の結果、簡易裁判所に「特定調停」の手続きを取った。

本人が「特定調停」


 特定調停は、裁判所に調停を申し立てることで貸金業者との間に調停委員が入って返済について話し合う方法。直接貸金業者とは対面せずに、2回ほどの話し合いで終わる。

 特定調停を利用すると利点として▽相手からの督促がなくなる▽利息制限法で計算し直すため、残債務(借金)が減り、今後の支払いは元金のみを3年から5年の分割払いで返済すればよい▽債務者本人が直接申し立てる場合は、簡易裁判所に納める収入印紙代や郵便切手代などで済み、費用が安く抑えられる、などの利点がある。

 裁判所の判例では、利息制限法が定める法定利息以上の利息は無効であり、たとえ支払っても元金に充当されるか、返還の対象とされる。

 元会社員は、1999年ごろに運転免許取得費用のため、龍ケ崎市内に支店のある消費者金融から年利29・2%で30万円借りたのがきっかけだった。以来、転職活動費用や転職時の生活費、転職先での営業活動費不払いなどで借金が約500万円までふくらんでいった。

 しかし特定調停を申し立てた結果、約260万円にまで減額され、元会社員は、貸金業者8社に対し、合計で月々6万円を4年間かけて支払うことになった。

自己破産、免責へ


 元会社員はアルバイトの収入の中から毎月6万円を返済に充てていたが、不安定な収入と複雑な家庭の事情により、これ以上の返済が難しくなり、再度ふれあいの会に相談した。

 破産手続きは個人でもできるが、個人で申し立てる場合は、すべての手続きや必要書類を自分でそろえなければならない。

 会員からの助言を得て元会社員は「同時廃止型(債務者に資産が無い場合の破産手続き)」の破産手続きを行った。手続きは、破産手続きと免責手続きの2つからなる。一般に言う「破産」は、免責までを含めている。

同時廃止型の手続き


 破産手続きは、債務者の住所地の地方裁判所に▽破産・免責申立書▽債権者一覧表▽住民票や源泉徴収票などの添付書類▽申立費用を提出する。

 約1~3カ月後に地方裁判所に行き、裁判官と「破産審問」と呼ばれる面接を行う。本人の収入や資産では、借金が払えない状況にあると裁判官が判断したときは、破産手続開始決定と同時に手続廃止決定をして、破産手続は終了。裁判官が破産宣告を宣言する。

 破産宣告を受けると官報に掲載されるが、戸籍には載らず秘密は守られる。また、選挙権は守られ、会社を解雇されることも原則的には無い。生活に必要な一定額の現金や日用品など、差し押さえが禁止されているものや、破産手続開始決定後に得た財産などは持つことができる。

 破産宣告を受けると、今度は免責(借金の支払い義務免除)を受けるための免責申し立てをする。同様に約1~3カ月後に地方裁判所に行き、裁判官と「免責審尋」の面接をする。免責は税金や罰金は対象外。また、免責は破産申立人すべてが認められるとは限らず、ギャンブルや遊興費のために借りた場合は「免責不許可事由」を理由に免責が受けられない事例もある。

 破産手続きでは、破産申し立てから、免責を受けられるまでに、約4カ月~半年位かかる。

 破産すると信用情報としてブラックリストに掲載され、通常の金融機関からは借入れが難しくなり、クレジットでの物品購入はできない。ただし、こうした不利益も一生続くものではなく、何年か続くものに過ぎない。

 元会社員は破産手続きの結果、申し立てから約4カ月後に免責が認められ、借金はゼロになった。

これからの課題


 ふれあいの会の関係者によると、東京簡易裁判所はすでに、貸金業者に対しての過払い金返還の調停を始めている。

 特定調停を申し立てて利息制限法で計算し直した結果、借金がゼロになるだけでなく過払い金が発生するケースがある。この場合、債務者が貸金業者に対して過払い金を返還するよう求める調停の手続きが取れる。

 今までは、弁護士に依頼して過払い金返還訴訟を行っていたが、調停により債務者の負担が軽くなる。ただ、今のところ茨城県内の裁判所で行われている例は見られない。

 一方、県内の消費者生活センター関係者によると、多重債務者の多くは税金や国民健康保険料を滞納している事例がある一方、徴税部門の担当者との連携がうまくいかないため救済が進まない現状がある。

 また、一部の日雇い派遣会社では、日雇い派遣労働者への「福利厚生」と称して自社系列の消費者金融で貸し付けを行う事例が見られる。一部からは「貧困ビジネス」として批判を受けており、新たな多重債務者の温床となる恐れがある。

         

□利息制限法 利息制限法は、金銭貸借において法定利息以上の利息は無効で、支払っても元金に充当されるか、返還の対象になる。▽元金が10万円未満の法定利息は年利20%▽10万以上100万未満は年利18%▽100万以上・年利15%

 多重債務被害者の会(県南ふれあいの会)では毎月第1・第3火曜日の夜7時~9時に相談を行っている。初めての人は電話で事前申し込みが必要。同会(0297・74・7181)まで。

(2008年9月22日付「常陽新聞」1面掲載。日付、肩書きなどは掲載当時のまま。)