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特集

年末回顧2009年

トステム土浦工場が日系ブラジル人労働者解雇

不況のしわ寄せ、現場労働者に

大塚ケンジ委員長

「全日本金属情報機器労働組合(JMIU)茨城地域支部トステム分会」の支援決起集会で訴える、日系ブラジル人の大塚ケンジ委員長=3月12日、土浦市中央の亀城プラザ

 2008年秋にかけて、トステム土浦工場(土浦市紫ケ丘)で働いていた日系ブラジル人の派遣労働者約100人が解雇されてから約1年経つが、解決への見通しは見えてこない。

 2月に結成した日系ブラジル人派遣労働者の労働組合「全日本金属情報機器労働組合(JMIU)茨城地域支部トステム分会」では、3月に労使交渉を行い、5月と7月には水戸地裁土浦支部に労働者の地位確認と賃金の仮払いを求める仮処分申請、12月には同社を同地裁支部に提訴した。提訴の背景には、6月に茨城労働局が同労組が「偽装請負」(※注)との申し立てに対し「労働者派遣法に反する」と認定し、日系ブラジル人たちを同社工場に派遣していた派遣会社「サンワーク」(本社・岐阜県垂井町)と同社に是正指導したにもかかわらず、一向に事態が進まないことがある。

 日系ブラジル人労働者の中には、労働者派遣法で製造業への派遣が認められた2004年以前から「派遣労働者」として働いていたほか、最長で10年にわたって「派遣労働者」として働いていた人がいたにもかかわらず、何の補償も受けていない。それどころか、今年秋にかけて相次いで失業保険が切れて、家族の生活不安を訴える声が相次ぐ。

 同労組関係者は「とにかく食べることが、せっぱ詰まっている。食いつなぎのための職を探している」と訴えた上で「外国人というだけで(選考から)はねられる」と"外国人差別"の実態を明かした。また、県内各地にいる職を失った日系ブラジル人たちが、同労組を頼って駆け込んでくる実情も語った。

 この問題は一部では「日系ブラジル人だけの特殊な問題」と見られがちだが、同様の「派遣切り」は日本人の非正規労働者の間でも多数起きているほか、現在では正社員を対象にした「違法」とも言える強引な解雇が起きている。ただ違うのは、日本人の多くが「運が悪かった」「どうせ組合や労基署は何もしてくれない」と、労組や行政機関に相談する前から「泣き寝入り」をし、労組による交渉や労基署に訴える労働者を"異端視"するのに対し、日系ブラジル人は「自分たちの"生きる権利"を奪うな」と、決して「泣き寝入り」しない点にある。

 日系ブラジル人たちの悲痛な訴えに裁判所が耳を傾け、「市民を守る砦(とりで)」として機能することを願ってやまない。(崎山勝功)

※偽装請負 本来は「派遣労働者」として扱う労働者を「業務請負」として働かせる違法行為。派遣労働者の場合は、労働者派遣法による各種の法規制があるが、「業務請負」では派遣先企業の「仕事を請け負う」関係なので、労働者派遣法の効力が及ばない、とされている。

(2009年12月25日付「常陽新聞」1面掲載。日付、肩書きなどは掲載当時のまま。)